研究業績リスト
著書
(1)『コミュニケーションと社会システム―パーソンズ・ハーバーマス・ルーマン』(共著)
- 出版社:恒星社厚生閣
- 刊行年:1997年3月
- 編者:佐藤勉
- 共著者:佐藤勉、高城和義、長岡克行、村中知子、中野敏男、正村俊之、長谷川公一、小林月子、村田裕志、佐久間政広、永井彰、小松丈晃、高橋徹、山田佳奈
- 担当部分1「第二部 第三章 生活世界とシステム」(159~180頁)
主として『コミュニケーション行為の理論』(1981)以降のハーバーマス社会理論の展開に焦点をあて、なぜハーバーマスがコミュニケーションの問題を現代社会把握にとって最重要テーマとみなすのかを、生活世界とシステムに関する議論を検討することで考察した。ハーバーマスによれば、現段階の社会国家(福祉国家)の行き詰まりは、人びとのコミュニケーションが貨幣や権力には代替不可能であることを示しており、この福祉国家の隘路を乗り越えるためには、言語による意思疎通のいっそうの活性化が必要とされる。 - 担当部分2「第二部 第五章 ハーバーマス理論の可能性と歪められたコミュニケーションの問題」(202~225頁)
ハーバーマスのコミュニケーション行為の理論がコミュニケーションに加えられる暴力の問題に対し有効なアプローチを提示していることを、歪められたコミュニケーションの議論に基づき検討した。人びとの一般的なコミュニケーション能力を問うという方法論にまず注目し、ハーバーマスがコミュニケーションの一般構造をどう分析しているのかを検討し、そのうえで、歪められたコミュニケーションの基本構図を考察した。
(2)『批判的社会理論の現在』(共著)
- 出版社:晃洋書房
- 刊行年:2003年6月
- 編者:永井彰、日暮雅夫
- 共著者:永井彰、日暮雅夫、菅原真枝、舟場保之、鈴木宗徳、岩崎稔、アクセル・ホネット
- 担当部分1「第三章 社会国家プロジェクトのリフレクティヴな継続」(63~88頁)
ハーバーマスの『事実性と妥当』(1992)を取り上げ、従来の社会国家(福祉国家)の限界をハーバーマスがどのように理論的に乗り越えようとしているのか検討した。ハーバーマスは、法に関する人びとの背後知識である法パラダイムに関し、これまでに二つの法パラダイム(リベラルの法パラダイムと福祉国家の法パラダイム)に対し手続き主義的法パラダイムを提唱する。この手続き主義的法パラダイムの内容とその意義を考察した。 - 担当部分2「第七章 批判的社会理論における承認論の課題」(153~176頁)
人びとの相互承認に関するハーバーマスとアクセル・ホネットの理論を比較検討した。まず、両者の社会理論の出発点が、人びとのアイデンティティが社会的な相互承認に基づくという考え方にある点を指摘し、そのうえで、両者の承認論の特質をそれぞれ検討した。最後に、社会学的な承認論の課題について考察し、相互承認そのものが社会的な病理をもたらしうることの分析、ならびに、相互承認をとりまく社会構造的諸要因の解明、の2点を課題提起した。
(3)『みらいに架ける社会学──情報・メディアを学ぶ人のために』(共著)
- 出版社:ミネルヴァ書房
- 刊行年:2006年2月
- 編者:早坂裕子、広井良典
- 共著者:広井良典、早坂裕子、小松丈晃、矢原隆行、柴田邦臣、大庭絵里、深水顕真、重松克也、松浦さと子、山尾貴則、竹内治彦、対馬栄輝
- 担当部分「第5章 国家と公共圏」(64~79頁)
ハーバーマスの公共圏論を手がかりに、現在の公共圏が操作の対象となっていることを、とくに国家と情報との結びつきに焦点をあてて考察した。そのうえで、近年の電子ネットワークの発達により、公共圏の批判的なポテンシャルが高まっていることを検討した。また、コラム欄では、行政の情報化にとって「eデモクラシー」の観点が重要であることを指摘した。
(4)『批判的社会理論の今日的可能性』(共著)
- 出版社:晃洋書房
- 刊行年:2022年6月
- 編者:永井彰、日暮雅夫、舟場保之
- 共著者:永井彰、日暮雅夫、舟場保之、田畑真一、久高將晃、小山裕、箭内任、藤井佳世、小山花子、宮本真也
- 担当部分「第10章 現代社会における自由の在処──ホネット『自由の権利』の挑戦」(187~203頁)
2011年に刊行されたホネットの第二の主著『自由の権利』の論旨を追い、その骨子を示した。そのうえで、ホネットの従来の承認論との関係について若干の検討を加えた。『自由の権利』は、この間のホネットによる承認概念の捉え直しに基づいていると言える。承認とそれに相応する行動や態度によって主体の自由が可能になる。この考え方から、ホネットは、法的自由、道徳的自由、社会的自由を区別し、法的自由と道徳的自由の誤った理解により生じる社会病理を明らかにするとともに、社会自由を困難にする現代社会の逸脱現象を「誤った発展」と呼んで分析している。
学術論文
(1)ハーバーマス社会理論における「生活世界」と「システム」―「二層の社会概念」の再検討―(単著)
- 『社会学年報』第22号、東北社会学会、1993年7月、81~101頁
- 概要:生活世界とシステムとを基軸とするハーバーマスの概念枠組みを方法論の文脈で検討した。ハーバーマスは、行為理論的アプローチとシステム理論的アプローチの綜合をこんにちの理論水準において達成することを目指している。この提言を検討することで、ハーバーマスの立論が、人びとに自覚されることなく進行している生活世界の危機をどう分析するかという問題に方向づけられていることを明らかにした。
(2)農業生産組織の存続と変貌―宮城県鹿島台町山船越地区の事例―(共著)
- 『日本文化研究所研究報告』別巻32集、東北大学文学部日本文化研究施設、1995年3月、1~22頁
- 共著者:佐藤勉
- 担当部分:第二節 山船越地区における地域複合の基本的特徴(4~6頁)
第三節 水稲組合加入農家における農業後継者の問題(7~10頁)
第四節 地域複合の直面している四つの問題(10~19頁) - 概要:宮城県鹿島台町山船越地区を対象地域として取り上げ、昭和40年前後から30年にわたって存続している農業生産組織が現在いかなる問題に直面しているのかを、加入農家の就労構造の変化を手がかりに考察した。そのことを通じて、現代日本の農業問題が農村地域の工業化の問題と密接不可分の関係にあることを示した。
(3)社会統合の論理とシステム統合の論理(単著)
- 『社会学研究』62号、東北社会学研究会、1995年7月、111~131頁
- 概要:一般的理解とは異なり、生活世界の存立基盤を強化しその実質合理性を高めうるシステムという考え方がハーバーマスの基本的見地であることを明らかにし、また、日常的なコミュニケーション行為それ自体に作用する暴力がハーバーマスの問題提起であることを示した。と同時に、本論文では、とくにハーバーマスのコミュニケーション・メディア論を取り上げ、一方の言語による意思疎通と他方の貨幣メディアや権力メディアにコントロールされた相互作用との違いについても検討を加えた。
(4)農業生産組織の存続と個別経営農家の危機的状況―宮城県鹿島台町山船越地区の事例―(単著)
- 『社会学研究』64号、東北社会学研究会、1997年5月、121頁~159頁
- 概要:強力な農業生産組織の存続が、組織に参加せず個別経営を維持した農家にどのような影響を与えているのかを、宮城県鹿島台町山船越地区の事例から考察した。30年にわたる強固な農業生産組織の存続により、この地区の個別経営農家は、農業の規模拡大が困難となり、稲作兼業を深化させている。しかし、そのことによって、個別経営農家は、農業生産組織の加入農家よりも相対的に安定した農業基盤を獲得しえている。このことは、現代日本の地域社会における農業システムがどのようにして成り立ちうるのかを考えるうえで示唆的である。
(5)コミュニケーション合理性再考(単著)
- 『研究紀要』37巻、大分県立芸術文化短期大学、1999年12月、87頁~99頁
- 概要:ハーバーマスのコミュニケーション合理性の考え方の主旨は、互いの意思疎通のなかで既存の自明な生活世界の妥当性をあらためて問題にし批判的に吟味することにある。こうした議論には、ハーバーマス社会思想の基本的な見地が明瞭に表れている。とくに、理念的なものの独自の位置づけ、徹底した可謬主義、実践的諸問題に対する形式主義、メタレベルでの批判、という四つの特徴を指摘した。
(6)社会国家と自律―ハーバーマスにおける社会国家論の展開―(単著)
- 『社会学研究』68号、東北社会学研究会、2000年10月、23頁~53頁
- 概要:本論文は『社会学研究』68号の特集「世紀転換期における社会学理論の課題」の特集掲載論文である。本論文では、転換期にある現代社会の一つの位相を社会国家(福祉国家)の転換に見定め、ハーバーマスによる社会国家論を検討した。福祉国家が目指してきた人びとの平等な私的自律は、法規範を制定し適用する公的自律が当事者たちの加わったコミュニケーションを通じて発揮されることではじめて実現可能となる。この公的自律は、政治の諸領域に対し公共圏が参加する新しいルートの制度化を必要とする。
(7)グリーン・ツーリズムにおける法的「規制」の問題―ドイツとの比較の試み―(単著)
- 『研究紀要』40巻、大分県立芸術文化短期大学、2002年12月、33頁~49頁
- 概要:農村地域活性化の有力な手法として注目されているグリーン・ツーリズムについて、ドイツと日本の関連法制度の比較を試みた。まず、グリーン・ツーリズムの世界的な先進地であるドイツにおいて、とくに農家民宿の新規参入に対しどのように法制度が整備されているのかを検討し、そのうえで、近年の日本の規制緩和の動きを大分県の事例を中心に取り上げた。最後に、ドイツの状況を手がかりとして、日本における今後のグリーン・ツーリズム関連法制度の課題を考察した。
(8)公共圏と市民社会―自律的公共圏の社会的条件―(単著)
- 『社会学年報』第32号、東北社会学会、2003年7月、25頁~46頁
- 概要:本論文は『社会学年報』32号の特集「公共性論と社会学のあいだ」の特集掲載論文である。本論文では、ハーバーマスとアクセル・ホネットの社会理論に基づき、公共圏の活性化の社会的条件を考察した。まず、ハーバーマスの公共圏の概念とその規範的理念を明らかにし、そのうえで公共圏のかかえる諸問題(内部の抑圧や排除、政治システムとの遊離)を検討した。この問題状況に対し、ハーバーマスは、手続き主義的な制度改革を提言している。これに対しホネットは、公共圏への人びとの動機づけと主体的志向のいかんを問い、その条件を社会的労働の領域におけるポスト伝統的ゲマインシャフトの成立に見出している。このホネットの立論は、市民社会の理念をあらためて検討することを促している。
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(9)再分配をめぐる闘争と承認をめぐる闘争─フレイザー/ホネット論争の問題提起─(単著)
- 『社会学研究』第76号、東北社会学研究会、2004年11月、29頁~54頁
- 概要:本論文は『社会学研究』の特集「社会理論と社会運動」の特集掲載論文である。本論文では、ナンシー・フレイザーとアクセル・ホネットの論争を手がかりに、批判的社会理論が今日の社会運動に関しどのような理論枠組みを提起しているのか、検討した。フレイザーは、物質的資源の再分配を要求する社会運動とアイデンティティの承認を求める社会運動とが分断している現状に対し、再分配と承認を統合する包括的な概念枠組みの構築を試みている。これに対し、ホネットはみずからの承認論に基づき、フレイザーが念頭に置いているような再分配と承認の二元論が成り立たないことを主張している。
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(10)労働と承認─ホネット承認論の視角から─(単著)
- 『社会学研究』第78号、東北社会学研究会、2005年12月、73頁~94頁
- 概要:本論文は『社会学研究』の特集「批判的社会理論の今日的状況」の特集掲載論文である。本論文では、アクセル・ホネットの承認論における社会的労働をめぐる議論を検討した。ホネットによれば、近代社会における社会的労働の領域では、法的承認と社会的価値評価という二つの承認形態がともに作用し、法的平等と個人的業績という二つの承認原理が交差している。ここでは、この二つの承認原理を拠り所にして、適切な承認を求める様々な社会闘争が生じうる。またホネットは、承認の歴史的変化に基づき、個体化の進展と社会的包摂の拡大を、社会進歩の規範的な基準としている。こうしたホネットの所説は、人間の多様な活動のなかから労働が相互承認を媒介にして社会的に生み出されることを明示するとともに、社会的労働におけるコンフリクトが物質的利害関心に基づくのみならず、承認要求という固有の道徳的次元を持つことを明らかにしている。その一方で、承認の歪みや病理、また承認にかかわる社会的不正が隠蔽されるメカニズムについて、さらなる理論展開が必要と考えられる。
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(11)アクセル・ホネットによる物象化論の再構成―承認と物象化―(単著)
- 『現代社会学理論研究』第2号、日本社会学理論学会、2008年3月、74頁~86頁
- 概要:本論文では、アクセル・ホネットの物象化論の内実と意義を検討した。ホネットは、自身の承認論に基づきジェルジ・ルカーチの物象化概念を再定式化している。ホネットによれば、承認は個体発生的にも原理的にも客観的認識に優先し、社会的相互作用の成立の条件をなしている。物象化は、この本来的な人間実践としての承認の忘却、つまり対象を客観的に認識するさいに承認への注意が低下することを意味する。ホネットは、この考え方に基づき、物象化の3つの形態(他者の物象化、自然の物象化、自己物象化)をそれぞれ捉え直すとともに、それらの社会的な背景要因を考察している。ホネットの物象化論は、承認概念の深化と拡張に基づいており、物象化に対する批判の根拠を社会内在的に取り出していること、本来的実践としての承認と客観的認識との二者択一図式を越えていることにその特質がある。その一方で、物象化の歴史的固有性や社会構造との関連が十分に考察されていないことが、課題として指摘できる。
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(12)アクセル・ホネットにおける承認の行為論―承認論の基礎―(単著)
- 『研究紀要』46巻、大分県立芸術文化短期大学、2009年3月、89頁~102頁
- 概要:本論文では、2003年頃の文献を素材に、アクセル・ホネットが行為論や認識論の枠組みで承認概念をどのように規定しているのか検討した。ホネットは、日常的な相互作用で自明のこととして行われている承認を、身体的表出を媒体とした道徳的なメタ行為として特徴付けている。この議論に基づき、ホネットは、自身の承認論の前提となる承認概念の規定を4点に集約するとともに、「穏やかな価値実在論」の見地から承認を、価値評価的な知覚に基づき習慣として反射的になされる行為と把握している。この捉え方は、ホネットが帰属モデルならびに知覚モデルと呼ぶ既存の二つの承認モデルを統合したものと言える。ホネットによる以上の立論を検討した上で、本論文では最後に、近年ホネットが承認を重層的に捉え直していること、承認の歴史的な「進歩」の考え方を取り入れることでホネットが社会批判の可能性を確保しようとしていること、相互作用の次元とは区別される社会制度の次元での承認の問題をホネットが考察しようとしていること、の3点を指摘した。
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(13)アクセル・ホネットの個人化論―自己実現の個人主義と承認のイデオロギー―(単著)
- 『松山大学論集』第29巻第1号、松山大学、2017年4月、231頁~272頁
- 概要:本論文では、1990年代から2000年代にかけてのホネットの諸説を取り上げ、ホネットが現代社会における個人化をどのように理論的に捉えているのかを検討した。ホネットは当初から、個人化の多様な意味をより正確に弁別する理論枠組みの必要性を提起しており、とくに90年代においては「私化」の問題に議論の焦点が置かれていた。これに対し2000年代では、「自己実現の個人主義」と呼ばれる現象にあらたに光が当てられている。ホネットは、自己実現の個人主義が1960年代以降の西欧社会でどのように広がり、その後いかに変容していったのかを示すとともに、そのもとで新たな社会的苦しみが生じていると指摘する。さらにホネットは、承認論の認識論的・行為論的な展開の成果にもとづき、承認がイデオロギーとして作用しうることを明らかにし、自己実現の個人主義の一部が承認のイデオロギーであることを論じている。本論文ではこうしたホネットの立論を検討したうえで、承認論における批判の根拠をあらためて考察することの必要を指摘した。
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その他(報告書)
(1)農村地域における在宅ケアとコミュニティ・ケアに関する比較研究(共著)
- 平成6年度科学研究費補助金(総合研究A)研究成果報告、1995年3月
- 研究代表者:佐藤勉
- 共著者:佐藤勉、新妻二男、佐久間政広、永井彰
- 担当部分:第2章 長野県佐久地区と新潟県大和町における地域医療システムは何を意味するか
本報告書では、現代日本の農村社会における地域医療システムの現状について、主として長野県佐久地区、岩手県沢内村、長野県武石村を対象地域とした比較研究を試みている。担当部分では、長野県佐久地区における佐久総合病院を中心とした地域医療システムの現状と問題点について、とくに近年のコミュニティ・ケアおよび在宅ケアの試みに焦点をあて検討した。
学会発表
(1)ハーバーマスにおける社会統合とシステム統合―近代法の位置づけを中心心に―(単著)
- 東北社会学会、1990年7月
- この発表では、近代化を、システムによる生活世界の植民地化の進展として把握しながらも、未完のプロジェクトとしての近代の可能性を提起するというハーバーマスの両面的な近代化把握を、近代法に関する議論を手がかりに検討した。ハーバーマスは、近代法が一方ではシステム統合を制度化しながらも、他方では生活世界の合理化を押し進める要因の一つであることを分析している。
(2)ハーバーマスにおける生活世界の合理化をめぐって(単著)
- 東北社会学会、1991年7月
- この発表では、近代の積極面を捉えようとするハーバーマスの立論を、近代における生活世界の合理化に関する議論をもとに考察した。ハーバーマスは、デュルケムの近代化論をコミュニケーション論的に再構成し、コミュニケーション行為の潜勢力の発揮が、世界像の構造変化、法と道徳の普遍化、個人の個体化の進展を促すことを明らかにする。コミュニケーション行為の力能の全面展開という点で、近代化は生活世界の合理化の側面を有する。
(3)ハーバーマスにおける「生活世界の合理化」の問題―システムとの関わりを中心に―(単著)
- 東北社会学会、1992年7月
- この発表では、システムによる生活世界の植民地化という問題状況のなかに、そうした危機を乗り越えるポテンシャルが整えられているというハーバーマスの動態的な近代社会把握を、とくにハーバーマスの社会進化論に光を当てて検討した。近代社会におけるシステム化の進展は近代法を基盤としているが、この近代法は、コミュニケーション行為の潜勢力の解放を促す決定的要因の一つである。ハーバーマスは、生活世界の植民地化のなかに生活世界の合理化の契機を見いだしているといえる。
(4)「近代社会」における「システム」と「生活世界の併合」(単著)
- 日本社会学会、1993年10月
- この発表では、経営やアンシュタルトといった近代的組織に関するハーバーマスの議論を素材として、近代のシステムが生活世界を道具化し併合することで存立を維持していることを検討した。生活世界とシステムの二項対立という従来みられた理解とは異なり、ハーバーマスの所説によれば、近代のシステムは、生活世界から切り離されて自立しているのではなく、システムの存立維持にとって適合的なかたちで生活世界を道具化しその生活世界の産物を採り入れることで、成立している。
(5)コミュニケーション行為と個体性(単著)
- 日本社会学会、1994年11月
- この発表では、近代的個人の可能性に関するハーバーマスの論考を取り上げ、近代社会が個人の個体性の深化を促進しており、討議というコミュニケーション形態はこの個体性に基礎づけられている点を明らかにした。近代において、行為者に制度的に要求される価値志向は、一般化され抽象化されていくが、この価値の一般化は、個人に対し、既存の行為規範に則る慣習的なアイデンティティから脱して脱慣習的なアイデンティティを形成することを促す。この脱慣習的なアイデンティティのもとで、日常的なコミュニケーション行為の力能が十分に発揮されうる。
(6)コミュニケーション行為の構成原理(単著)
- 東北社会学会、1995年7月
- この発表では、90年代以降のハーバーマスの新たな理論展開に注目し、コミュニケーションが社会理論の基礎概念であることの内実を検討した。ハーバーマスによれば、言語による意思疎通にはコンセンサスに至らないというリスクがいつでもはらまれており、この意思疎通に基づく社会秩序は、つねに不確実で不安定たらざるをえない。社会学の原理的課題は、不確実で不安定であるにもかかわらず一定の行為秩序が成立しえているとすれば、それはいかにしてなのかを解明し再構成することにある。
(7)近代における「社会的なもの」の潜勢力―ハーバーマス『事実性と妥当』を手がかりに―(単著)
- 日本社会学会、1995年9月
- この発表では、近代法および民主的法治国家に関する、90年代以降のハーバーマスの議論をもとに、生活世界の実質合理性を高めるというシステムの可能性が実現される方途を、ハーバーマスがどう理論化しているのか検討した。とくにコミュニケーション権力という考え方とハーバーマスに独自の市民社会論の展開に注目した。この市民社会概念の核心は、人びとが日常的に直面している社会的諸問題を解釈し分節化するコミュニケーションのはたらきにある。
(8)農業生産組織の存続と個別経営農家のゆくえ―宮城県鹿島台町山船越地区の事例―(単著)
- 日本村落研究学会、1996年10月
- この発表では、宮城県鹿島台町山船越地区の事例を手がかりに、現代日本の農業生産組織が直面する諸問題を考察した。水稲組合を中心とした同地区の農業生産組織は、強固な共同性・組織性を達成し、結成当時の社会的諸条件にきわめて適合的であった。だが、そうであるがゆえに、この組織は、結成後30年の社会的諸条件の変化に対応できず、解体も再編もできないまま、矛盾をかかえて現在に至っている。
(9)ハーバーマス理論における歪められたコミュニケーションの問題(単著)
- 日本社会学会、1996年11月
- この発表では、ハーバーマスが、コミュニケーションの一般理論を構築することによって日常的コミュニケーションにはらまれる権力の問題にアプローチしていることを、歪められたコミュニケーションに関する論考を素材として明らかにした。ハーバーマスは、人びとの有する一般的なコミュニケーション能力を再構成し、それがどのように発揮されているのかという観点から、歪められたコミュニケーションの諸現象を解読している。
(10)近代社会における「事実性と妥当」(単著)
- 日本社会学会、1997年11月
- この発表では、90年代以降ハーバーマスが展開している法と法治国家に関するディスクルス理論を素材に、ハーバーマスが、近代法と近代的法治国家の特質をどのように捉えているのかを検討した。ハーバーマスは、近代法と近代的法治国家が、それぞれ異なる次元で事実性と妥当との緊張に貫かれ、みずからの規範的自己理解を新たに解釈し実現していく絶えざる自己更新の過程におかれているとみる。その意味で、近代法と近代的法治国家には、「未完のプロジェクト」としての近代が具現しているといえる。
(11)コミュニケーション合理性再考(単著)
- 日本社会学会、1998年11月
- この発表では、ハーバーマスの批判的社会理論の基礎として、コミュニケーション合理性の概念を検討した。コミュニケーション合理性の概念の核心は、コミュニケーションのなかで既存の生活世界に対する共同の批判的吟味の可能性が開かれることにある。そのかぎりで、ハーバーマスは徹底して可謬主義的な見地に立っている。批判的社会理論の課題となるのは、人びとが自分たちのかかえる諸問題を互いの意思疎通を通じて共同で明らかにしその解決をはかっていくための諸条件の解明である。
(12)公共圏と市民社会(単著)
- 東北社会学会、2002年7月
- この発表は、第49回東北社会学会大会の課題報告「公共性論と社会学のあいだ」においておこなったものである。90年代以降の公共圏論を、ハーバーマスとアクセルホネットの所説を素材として検討した。まず、公共圏概念の意味内容を整理するとともに、その規範的理念を明らかにした。そのうえで、現在の諸公共圏がさまざまな権力構造を有している点を検討し、そうした問題状況のなかでどのように公共圏の活性化が可能となるのか、考察した。ハーバーマスが提唱する手続きの整備と、ホネットが提起するポスト伝統的ゲマインシャフト、この二つを活力ある公共圏の社会的条件として確認した。
(13)社会理論としての承認論──ハーバーマスとホネット(単著)
- 東北社会学研究会、2004年10月
- この発表は、東北社会学研究会、2004年度大会のシンポジウム「批判的社会理論の今日的状況」にておこなった。批判的社会理論を代表する論者であるユルゲン・ハーバーマスとアクセル・ホネットを取り上げ、ホネットがハーバーマスのコミュニケーション行為の理論にどのような難点を見出し、それをどう乗り越えようとしているのか、検討した。とくに、ホネットによる、社会理論としての承認論の展開に注目し、承認論に基づく近代社会論とその射程を考察した。
翻訳
(1)『社会システム理論(下)』(共訳)
- 恒星社厚生閣、1995年10月
- 著者:ニクラス・ルーマン
- 監訳者:佐藤勉
- 共訳者:村中知子、村田裕志、佐久間政広、永井彰、小松丈晃、高橋徹
- 担当部分:「第十章 社会と相互作用」
- Niklas Luhmann, Soziale Systeme, Suhrkamp Verlag, 1984の邦訳下巻である。この著作は、コミュニケーション論を基軸としたルーマンの社会システム理論の主著であり、社会学の諸基本概念が検討されている。担当部分「第十章 社会と相互作用」では、社会というシステムと相互作用システムとがそれぞれいかなる意味でシステムなのかが説明され、両システムが互いに互いを条件づけあう関係にあることが分析されている。
(2)『正義の他者』(共訳)
- 法政大学出版局、2005年5月
- 著者:アクセル・ホネット
- 共訳者:日暮雅夫、加藤泰史、池田成一、池田拡吉、神谷美砂子、庄司信、高畑祐人、竹内真澄、福山隆夫、舟場保之、宮本真也
- 担当部分:「第八章 愛と道徳」
- Axel Honneth, Das Andere der Gerechtigkeit, Suhrkamp Verlag, 2000の邦訳である。この著作では、独自の承認論に基づくホネットの社会哲学、道徳哲学、政治哲学に関連する諸論文がまとめられている。担当部分「第八章 愛と道徳」では、ホネットは、愛(性的なもののみならず友愛や親子間の愛も含む)に基づく親密な関係がカント流の尊敬道徳とどのような関係にあるのかを、愛に関する近年のさまざまな研究を整理するなかで論じている。まず、親密な関係が徹底して個別主義的な性格を持つことが示され、そのうえで、そうした関係がカント主義における不偏不党の尊敬道徳とは異なる独自の規範的内実を持つことが主張されている。
(3)『見えないこと』(共訳)
- 法政大学出版局、2015年5月
- 著者:アクセル・ホネット
- 共訳者:宮本真也、日暮雅夫
- 担当部分:「第三章 第三者の破壊的な力について」「第六章 対象関係論とポストモダン・アイデンティティ」
- Axel Honneth, Unsichtbarkeit, Suhrkamp Verlag, 2003の邦訳である。この著作は、「第一章 見えないこと」を除き、多くが他の哲学者等を論じた諸論文からなっている。著作全体としては、「承認というコミュニケーション的な行いをどのようにより精緻に理解しなければならないのか、という問題を追求」(序文1ページ)したものとされる。
- 担当部分「第三章 第三者の破壊的な力について」では、ホネットは、ガダマーの『真理と方法』に見られる相互主体性論を、その立論の背景をなすハイデガーの『存在と時間』にまでさかのぼり、批判的に検討している。担当部分「第六章 対象関係論とポストモダン・アイデンティティ」では、「ポストモダンのパーソナリティ」と呼ばれる主体の新しいあり方を取り上げ、それを考察するための理論枠組みとして、精神分析における対象関係論の可能性を検討している。
(4)『自由の権利——民主的人倫の要綱』(共訳)
- 法政大学出版局、2023年1月
- 著者:アクセル・ホネット
- 共訳者:大河内泰樹、宮本真也、日暮雅夫
- 担当部分:序文、序論、A部Ⅰ章、B部Ⅰ章、C部Ⅲ章1節(b)、C部Ⅲ章3節(a)(b)
- Axel Honneth, Das Recht der Freiheit. Grundriß einer demokratischen Sittlichkeit, Suhrkamp Verlag, 2011の邦訳である。
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